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アニメ化企画進行中!小説『異世界食堂』の魅力を語ります

  最終更新日:2017/12/12

異世界食堂

 アニメ化企画進行中ということで、『異世界食堂』の魅力について語ってみます。

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はじめに

 『異世界食堂』は、この文庫本と出会った時から本ブログで記事化しようとずっと思ってきた作品です。当ブログのGoogle+サイトを立ち上げた際にヘッダ画像に勝手に「洋食のねこや」の扉を書き込んだぐらいには思い入れがあります(Google+のページはこちら、ただし他にも書き込みがあるのでご注意を)。本記事のアイキャッチ画像はGoogle+のヘッダ画像から切り抜いたものです。

 どこまで皆さんに伝わるか分かりませんが、『異世界食堂』の魅力について語りたいと思います。

異世界食堂とは?

 異世界の住人が訪れる「洋食のねこや」は、オフィス街に近い商店街の入り口、ビルの地下1階にあるお店です。平日は普通の食堂として商売していますが、土曜日だけ異世界からの住人が訪れます。異世界各地に場所を選ばず出現する樫の扉。その魔法の扉は「洋食のねこや」へ続く扉です。

 主人公が異世界に転生するライトノベルやアニメがここ10年ぐらいで急激に増え、食傷気味の方も多いと思いますが、『異世界食堂』はいわゆる”異世界転生もの”ではありません。

 『異世界食堂』は、異世界の様々な職業、身分、種族が現代日本の食堂に料理を食べに訪れる、ファンタジー小説でもありグルメ小説でもある、そんな作品です。

作品について

 犬塚惇平著『異世界食堂』は”小説家になろう”と言うオンライン小説サイトに投稿されているライトノベル作品です。第1話が投稿されたのが2013年1月4日、現在までに117話が投稿されています。既に文庫として3巻まで発売されています。文庫1冊に20話+特別編1話収録、1話完結形式でそれぞれ短いので、読書が苦手な方にもおすすめです。

 また、現在もこちらのページで作品を読むことができます。

 当然ですが、文庫版は加筆修正されています。本記事を読んで、もし気になったらぜひ購入して下さい。なお、文庫版3巻以降とWeb版で内容が異なっている箇所があるので(第41話「カレーライス再び」以降)、Web版も合わせて読むと良いかもしれません。

異世界食堂の魅力

『異世界食堂』の構成要素

 『異世界食堂』は、ドラマ作品の『深夜食堂』と『孤独のグルメ』、漫画『テルマエ・ロマエ』の要素を混ぜ合わせたような作品です。3つの作品から次の要素が『異世界食堂』の一部になっています。

『深夜食堂』の要素 ・料理名がタイトルになっている
・食堂を中心にして話が進み、客同士の交流が生まれる
・店主の素性がぼかされている
『孤独のグルメ』の要素 ・登場人物が料理を楽しんで食べる様子が描かれる
『テルマエ・ロマエ』の要素 ・現実世界と異世界を特定の装置でつなぐ
・現実世界の事物が異世界に影響を与える

 もちろん、作者がこれらの作品を参考にしたかどうかは分かりません。しかし、タイトルを見てみても、明らかに『深夜食堂』は意識していると思われます。「洋食のねこや」と称している割に洋食以外にも和食、中華など何でもありなお店なので、その点も”頼めば何でも作ってくれる「深夜食堂」”に似ています。

 ともあれ、先に挙げた3つの要素以外に本作独自の要素が加わっています。

 「異世界食堂」の客は話ごとに変わります。異世界の住人はファンタジー世界の住人なので、人間以外にもエルフやドワーフ、魔族、リザードマン等々、多彩な種族が訪れます。彼ら客を通して異世界の世界観が垣間見えます。種族以外にも、職業、宗教、魔法、文化、風土、歴史、町、国家、経済などの様子が見えてきます。あくまで食堂が中心のお話なのに、意外と様々な分野の成り立ちが考えられています。それらが客を通して徐々に見えてくる所が面白い点です。

 「異世界食堂」への扉が異世界のあちこちに現れる点も世界観の広がりを大きくすることに一役買っています。町中や倉庫、遺跡、森、山、無人島などありとあらゆる場所に扉は現れます。魔法の扉(正確にはドアベルに魔法がかかっている)と言う設定なので、どんな場所に現れても不自然ではないのです。

 異世界に扉が現れるのが現実世界の土曜日だけと言うのもポイントです。特定の曜日だけしか現れないため、逆に客同士の交流を生みやすくしています。ある話の裏で別の話で登場した人物が食事をしていたり、会話などの描写があるとお店の喧騒が伺えます。

 『異世界食堂』をファンタジー小説として見ると、どこかの作品で見たことのある要素が多いように思います。しかし、ここまでに挙げてきた要素を混ぜ合わせることで、非常に独創的なストーリーになっています。文庫第1巻の第5話まで読めば、ここまで上げた要素がほとんど現れます。ぜひ読んで見て下さい。

料理が主人公?

 『異世界食堂』の読者に「この作品の主人公は誰か?」と質問したとすると、おそらくいくつか異なった回答が返ってくるはずです。

 ある人は「話ごとに主人公が変わる」と答えるかもしれません。ある人は「マスター(店主)が主人公では?」と答えるかもしれません。私は「料理が主人公」だと思っています。

 『異世界食堂』の話は料理名がタイトルになっており、その料理を食べる人物が主人公であると言えなくもないのですが、話のメインはあくまで料理です。料理自体は喋らないし、動きません。しかし、まず料理があり、その料理を補強するために食べる人が存在しているように思えます。その点はドラマ『孤独のグルメ』の話の構造に近い作りになっています。

 『異世界食堂』の中で私が面白いと思う話は、「なぜその料理を食べるに至ったのか?」、「なぜその料理を食べ続けたいのか?」などの理由が明快に書かれた話です。いかに料理を引き立たせられたかが面白さにつながっていると思います。

 文庫化された話で私が特に好きなのは次の4つの話です。先程挙げた「なぜ?」の部分がうまく書かれている話です。

  • 第1話「メンチカツ」
  • 第3話「エビフライ」
  • 第40話「カツ丼」
  • 第60話「コロッケ」

 何が主人公なのかは意見が割れそうなので、この話はここまでにしておきたいと思います。

お腹がすく文章

 ここまであれこれ書いてきましたが、『異世界食堂』の一番の魅力はお腹のすく文章です。

 口の中に広がるのは、たっぷりとした肉汁。それが良質な油を含んだ軽い食感の衣と混ざり合い、口の中で弾け、ほどけていく。塩と胡椒が効いた、けれど決して効きすぎていない絶妙な味加減の肉と、その肉に混ぜ込まれたオラニエのほのかな甘味。
 それがサラを素晴らしい美味の世界へと誘う。

 上の文章は、文庫の第1巻、第1話「メンチカツ」よりの引用です。実に美味しそうに感じられる文章です。ちなみに、”オラニエ”とは異世界用語で玉ねぎのことです。

 ドラマ『孤独のグルメ』では「夜食テロ」と呼ばれる言葉が生まれましたが、食欲を刺激する点では『異世界食堂』も同じです。比較的日本人に馴染みのある料理や菓子、デザートが多く取り上げられているので、想像しやすいのもあるかと思います。

 いずれにせよ、夜中に『異世界食堂』を読むのはおすすめしません。

アニメ化に対する期待

 キャラクター等のビジュアルは挿絵担当のエナミカツミ氏(一番有名なのは『バッカーノ!』の挿絵担当)のものがベースになるものと思われます。その点はあまり不安要素はありません。

 気になるとすれば、やはり料理です。アニメで美味そうな料理を表現するのは非常に難しいです。アニメ『ベン・トー』で弁当専用の作画担当を置いたように、料理専用の作画担当を置いて欲しいところです。おそらく、アニメ化の成功の鍵は料理の作画次第だと思います。

 異世界用語として”オラニエ(たまねぎ)”、”カリュート(にんじん)”などの用語も登場するのかが気になるところです。異世界の言語であるサマナーク語の料理メニューも登場するでしょうか。

 今あれこれ期待したところで放送日も何も決まっていないので、気長に待つことにします。

2017年12月12日追記)
 遅ればせながらアニメの感想です。正直、期待外れの出来でした。声優の演技に問題はないと思いましたが、作画が全体的にイマイチでした。異世界の描写もありきたりな感じがしました。多分2期は期待できないですね。

 あえて本編の記事では触れませんでしたが、次は異世界居酒屋のほうに期待します。