ビール好きにオススメの小説、西澤保彦著『麦酒の家の冒険』
最終更新日:2016/05/21
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はじめに
「読書」のカテゴリーが付いた記事では、今まで私が読んだ本の中からオススメの本を紹介していきます。流行は特に追わず、娯楽小説をメインとする予定です。ジャンルはミステリー、SF、歴史、ライトノベル等々を考えていますが、たまに硬派な作品も取り上げて行くつもりです。と言うことで、最初に取り上げるのは西澤保彦著『麦酒(ばくしゅ)の家の冒険』です。
あらすじ
タック、タカチ、ボアン先輩、ウサコの大学生4人組はR高原へ遊びに出かけるが、その帰り道にガス欠で車が止まってしまう。仕方なく車を捨てた一行は無人の別荘に迷い込む。しかし、別荘にはベッドとヱビスビールのロング缶がぎっしり詰まった冷蔵庫があるだけだった。ビールの詰まった冷蔵庫の謎に挑むべく、4人はビールを飲み干しながら推理を始めるのであった。
作品について
今回紹介するのは、麦酒の家の謎に挑む、人が死なないミステリー作品です。西澤保彦作品の中でも私が特に好きな作品です。『麦酒の家の冒険』は匠千暁シリーズの3冊目ですが、特に前作を読まなくても独立した作品として楽しめます。とは言え、もし気に入ったのなら発表順にシリーズ第1作目の『解体諸因』から読むことをオススメします。
若干ネタバレになるしれませんが、冷蔵庫は台所ではなくわざわざ変な所に置かれています。「ビールの詰まった冷蔵庫が隠されるように別荘に置かれているのはなぜか?」と言うのが本書の謎になります。
主な登場人物は、主人公のタックこと匠 千暁(たくみ ちあき)、タカチこと高瀬 千帆(たかせ ちほ)、ボアン先輩こと辺見 祐輔(へんみ ゆうすけ)、ウサコこと羽迫 由起子(はさこ ゆきこ)の4人です。タック、タカチ、ウサコは大学2回生の同級生ですが、ボアン先輩は休学と留年を繰り返しているため、タック達よりも年齢はかなり上のようです。匠千暁シリーズは短編を除くとこの4人が中心になって話が展開します。
作品の見所は、ビールをひたすら飲みながら4人が麦酒の家の謎について解答を出し合っていくところです。多分誰しも経験があると思いますが、学生時代に仲間が集って和気あいあいとあてどもなく話を続ける感じです。普通の推理小説では探偵が足を使って調査をし、事件を解決に導く訳ですが、この作品では基本的に同じ部屋の中で限られた情報のみを使って推理して行きます。推理とは言ってもビールを飲みながらなので、突拍子もない考えが次々に出される訳です。果たして謎はどのように解き明かされるのか?続きは本書を読んで確かめて下さい。もちろん、ビールを片手に。
著者の他作品について
西澤保彦作品の特徴として特異な設定が上げられます。初期の著作である『七回死んだ男』は時間のループを繰り返す男の話、『完全無欠の名探偵』は潜在意識に働きかけて周囲の人間が探偵役となる特殊能力を持つ男の話、『死者は黄泉が得る』では死者を蘇らせる装置が登場する連続殺人事件の話、『人格転移の殺人』では文字通り6人の人格が入れ替わりながら連続殺人が行われます。この様に設定の面白さは他のミステリー作家にはない魅力です。シリーズものでは、事件に超能力が絡む『神麻嗣子の超能力事件簿』、市民相談から事件を解決に導く『腕貫探偵シリーズ』等があります。良くありがちな探偵と助手がいて事件を解決する作品はひとつもないですね。
ファンとしてはコンスタントに作品を発表し続けてくれるのも嬉しいところです。難点を上げるとすれば、『匠千暁シリーズ』と『神麻嗣子の超能力事件簿』はシリーズが完結せずに長年止まっていることです。早く書いてくれないかなと思います。
『神麻嗣子の超能力事件簿』で表紙イラストを担当されていた水玉螢之丞さんが55才の若さで昨年亡くなられました。ご冥福をお祈りします。実はこのシリーズは既に絶版になっている模様です。今後続編が発表されるか分かりませんが、購入するなら電子書籍か古本をオススメします。
今回取り上げた『麦酒の家の冒険』以外にも西澤保彦作品には面白いものがたくさんあります。ぜひ一度読んでみて下さい。
最後に
冒頭の写真は講談社文庫版の『麦酒の家の冒険』とヱビスビールのロング缶です。講談社文庫版は表紙が凝ってるんですよね。タイトル部分がビールの白い泡で表紙全体がビールになっています。しかも、このビール越しにヱビスビールのロング缶がぎっしり詰まっています。下の方は缶が少しだけ崩れていますね。
撮影後にこのヱビスビールはスタッフが美味しくいただきました。プハーッ!