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サマータイム導入なんてとんてもない!エンジニアの立場で考える

  最終更新日:2018/09/04

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サマータイム導入なんてとんてもない!

 東京五輪の酷暑対策としてサマータイムの導入がほぼ決定したかの様な報道が流れました。もしサマータイムが導入されたとしたら何が起こるのか、エンジニアの立場で考えてみました。五輪終了後も恒久的に運用しようと言う話に変わって来たので加筆しました。

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報道内容

2018年8月6日付 産経新聞報道

2018年8月6日付 産経新聞報道

 2018年8月6日付の産経新聞の記事によると、日本でもサマータイムが導入決定したかの様に報じられました。以下、記事から引用します。

政府・与党は、平成32(2020)年の東京五輪・パラリンピックの酷暑対策として、夏の時間を2時間繰り上げるサマータイム(夏時間)導入に向け、本格検討に入った。与党はお盆明けにも制度設計に入り、秋の臨時国会への議員立法提出を目指す。平成31、32両年の限定導入となる公算が大きい。複数の政府・与党関係者が明らかにした。

 この記事を読んだ私の第一印象は、「無茶だろう」と言う印象でした。理由は主に以下の3点です。

  • 準備期間が短すぎる
  • 影響範囲が大きすぎる
  • ひとつの大会のために実施すべき事ではない

 以降で掘り下げて考えてみます。

問題は切り替え処理

 サマータイムを導入する事で何が起きるかと言うと、開始時と終了時に時間がずれます。

 現在報じられている案では、6月から8月にかけて2時間繰り上げる様です。つまり、6月1日午前0時がいきなり午前2時になり、9月1日午前2時になったら9月1日午前0時に巻き戻る訳です(補足:サマータイムを実施している国では午前2時開始が多いですが、説明を簡単にするため午前0時開始としています)。

 変な話、時間が不連続になってしまいます。時間の不連続が一番の問題になるのはコンピューターです。

 現在稼働しているコンピューターは、ほぼ全てのOSにおいてサマータイムに対応する処理が入っています。Windows、Mac OS、iOS、Androidなどです。

 ただし、日本ではコンピューターが導入されて以降、サマータイムが導入された実績が無いので、実際にはこれから日本向けの変更をOSと時間を扱うソフトウェアに入れる必要があります。

 かなり大雑把に書くと、ソフトウェアの対応としては以下の様になります。

  • OSに日本向けのサマータイム処理を実装する
  • 時間を扱うソフトウェア(アプリケーション等)にサマータイム処理を実装する

 OSの対応は比較的簡単に済むと思われます。あくまで現在サポートされているOSに限っての話ではありますが……。サポートの切れた古いOSはほぼ不可能です。

 仮に古いOSを新しく置き換えられたとしても、時間を扱うソフトウェアの対応のほうが実は問題になります。

サマータイムのソフトウェアの対応方法

 コンピューター内部の時間管理がどうなっているかについて、ここも大雑把に説明します。

 イギリスのグリニッジを基準とした時間が世界標準時(世界時)です。日本はグリニッジの時刻から+9時間ずれています。

 世界標準時は天体観測に基づく時間であり、現在はより正確に時を刻む原子時計で管理されたUTC(協定世界時)を元にコンピューターは時間管理をしています。

 日本標準時もUTCを基準に決められており、UTCに対して+9時間となっています。世界標準時とUTCが同一に思えるかもしれませんが、世界標準時は地球の自転速度によって不規則に変化するため同一ではありません。

 UTCの利点は、世界のどこに行っても同じ基準で時刻を管理可能で、地域の時差だけ把握しておけば良い点です。

 先程のサマータイムの説明では、6月1日午前0時がいきなり午前2時に変わりますが、この瞬間に時差を9時間から11時間に変えればおしまいです。日本標準時から見ると不連続ですが、UTCでは時間が連続している訳です。

 ここまでの説明では、ソフトウェアのサマータイム対応が簡単だと思うかもしれません。しかし、簡単に対応できるのは時間をUTCで管理しているソフトウェアだけです。日本標準時、いわゆるローカル時間で管理しているソフトウェアではUTCで時間管理するように変更する必要があります。

 さて、ローカル時間からUTCで時間管理するように変更できたとしましょう。ですが、ここで次の問題が発生します。ソフトウェアをバージョンアップすると時間が9時間巻き戻ってしまうのです。

 そのため、時間を扱うソフトウェアでは、時間巻き戻りに対応する処理を入れる必要があります。

 また、どうしてもローカル時間で管理するしかない場合もあるでしょう。例えば、USBメモリやSDカードで使われているフォーマットであるFATはローカル時間でしか記録できません。

 結局、サマータイムに対応できないソフトウェアが多数出てくるでしょうし、テストケースとして来年すぐ実施しようと言うのは非常に無理があります。

 そうなると、全てのソフトウェアでサマータイムに対応するのは難しいので、対応せずに人間がサマータイムに合わせてソフトウェアを運用しようと言う結論を出す場合もあるでしょう。さて、そうなった場合に人間はミス無く運用できるのでしょうか?

来年実施すると何が起きるか?

 政府としては、2019年、2020年の2回だけサマータイムの実施を検討している様です。

 準備期間が1年に満たない状況では、全てのソフトウェアに対策するのはまず無理でしょう。そのため、強行すれば問題が頻発するのが予想できます。

 特に影響が大きそうなのは、金融、医療、交通、製造業などでしょうか。サマータイムによる省エネなどの経済効果を報じている記事を見かけましたが、多分混乱によるマイナス効果のほうが大きいと思われます。

 近年はサマータイムを実施している国でも、省エネ効果が薄い、健康被害などの理由により、サマータイムを中止または中止を検討している国が増えています(ロシアは2011年を最後に中止)。

 サマータイムを実施するためには、全てのシステムがサマータイムに対応しておく必要性があります。しかし、自分達には関係ないと対応の検討すらしない企業、団体も出てくるでしょうし、対応漏れもあるでしょう。

 それを来年2019年に実際に試して問題点を洗い出せば良いと甘い考えの人もいると思います。しかし、対応を誤ると日本人全体の活動に確実に悪影響が出ます。

人間が対応できない

 さて、全てのシステムがサマータイムに対応でき、全てが何の問題もなく動いたと仮定しましょう。それでもやはり問題は起こります。人間が対応しきれないからです。

 例えば、午後10時に寝ていた人が、サマータイム開始後はそれまでの午後8時に寝る事になります。多分すぐには寝付けないでしょう。

 やっと慣れてきたと思ったら、サマータイムが終了してまた2時間ずれる訳です。考えただけで体調管理が難しそうです。

 他の例として、毎日午前6時に配達している運送業者の人がサマータイム導入時は午前4時に配達することになります。きっと睡眠時間を削って配達するのでしょうが、睡眠不足は交通事故の引き金にならないでしょうか?実際にサマータイムの開始終了前後で交通事故が増える統計データがあります。

 おそらく、残業時間も増えます。実は日本でも1948年から1951年にかけてサマータイムを実施した事があります。しかし、残業時間の増加や寝不足などを理由にやめています。日本人は待ち合わせ時間などの開始時間は厳密に守りますが、終了時間はいい加減ですから……。

 また、特に子供や高齢者もサマータイムに合わせるのが難しいでしょう。と言う事は、子供の親や高齢者を介護している人にも影響があります。子供や高齢者の多い医療機関や施設での混乱も目に浮かびます。

 準備期間が5年ぐらいあれば、サマータイムの対応も可能だったかもしれません。しかし、来年は天皇陛下の退位に伴う元号変更もあり、それに加えてサマータイムにも対応するのは無茶をするにも程があります。

 さて、それでも政府は実施するのでしょうか?私には世紀の愚策としか思えません。

 サマータイムを実施しない事を切に願います。

 以降、加筆しました。

サマータイムは本当に良い制度なのか?

 サマータイムの利点は、節電効果、夜間の活動が増える事による経済効果、交通事故や犯罪を減らす事とされています。

 しかし、どれもこれも効果については疑問に思います。

 節電効果は、ある統計分析結果によると、わずか0.34%でしかありません。そもそも、赤道からあまり離れていない地域では節電効果が小さい様です。日本は赤道から離れていると言えば離れていますが、サマータイム発祥の欧州と比べると近いので効果は更に薄いでしょう。

 経済効果は、日中時間の増えるレジャー産業には好影響を与えるようですが、農家には悪影響を与える可能性があります。

 農家は太陽の動きに応じて作業するため、サマータイムに適応して変化する事が難しいと言えます。例えば、酪農家がサマータイムによって搾乳時間を早める事はできないでしょう。まさか、牛にサマータイムに合わせろとは言えません。農家にとっては、一般の人に合わせて活動する必要も出てくるでしょうし、結果として睡眠不足などの悪影響を及ぼす恐れがあります。

 交通事故はサマータイムによって死者数が数%程度減る様です。これは、日中時間が増える事による効果と思われます。ただし、イギリスではサマータイム終了直後の2週間で事故が11%増加した統計データもあり、一概に好影響があるとは言えません。

 犯罪に関しては、統計データが見つからなかったため実際の効果は不明ですが、強盗や性的暴行が減る可能性があるとされています。

 ここまでは利点を取り上げました。当然欠点もあります。

 欠点は健康被害です。サマータイムの開始と終了前後に心臓発作のリスクが10%増加し、睡眠の妨げ、作業効率の低下などを引き起こします。

 心臓発作はともかくとして、睡眠や作業効率への影響が出る事は誰にでも分かるはずです。

 さて、利点と欠点がある事が分かりましたが、馬鹿な日本の官僚は利点を誇張し、欠点を過小評価して政治家に回答する恐れがあります。それを政治家が信じたらサマータイム導入に突き進むことでしょう。(訂正:むしろ自民党議員が前のめりで進めようとしている事が分かりました)

 現在の状況は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長である森喜朗が思い付きで暴走しているようにしか見えません。仮に今年が冷夏だったらこんな議論は出てこないはずで、それに引きずられて政府与党が動くのはおかしな話です。

 おそらく、森喜朗が制度としてのレガシー(遺産)を残したいと言う考えなのでしょうが、レガシーには「時代遅れ」の意味もあるので、もっと若い人たちに任せてほしいです。