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サマータイム、その是非を問う - 海外の調査結果を参考に考える

  最終更新日:2018/09/11

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サマータイム、その是非を問う

 サマータイム批判の記事は多く見かけますが、そのほとんどが個別の要素に対する批判です。

 この記事ではサマータイムの利点と問題点を取り上げ、総合的にサマータイム導入の是非を考えます。

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はじめに

 この記事ではサマータイムの調査結果と記事を多数紹介します。一部例外はあるものの、ほとんどが欧米の調査結果と記事からの引用です。

 サマータイムは日本語で夏時間と呼ばれますが、欧米のサマータイムの期間は春から秋にかけの7、8ヶ月に及びます。

 紹介する調査結果と記事は主にサマータイム開始終了前後のもので、春または秋のデータを元に作成されているものがほとんどです。

 日本で導入が予定されているサマータイムは、夏季限定3ヶ月の短期間のものを想定しているようです。

 そのため、欧米の調査結果を日本で導入した場合に当てはまらないかもしれません。その点はあらかじめご理解下さい。

犯罪抑止に効果あり

 スタンフォード大学経済政策研究所の2012年の調査結果によると、一部の犯罪には抑止効果がある事が分かっています。調査の内容は、犯罪行動のサマータイムによる影響についてです。

 この調査結果によると、強盗、強姦、住居侵入窃盗、そして万引きの犯罪がわずかに減少しています(減少率は、強盗:約0.2%、強姦:約0.1%、住居侵入窃盗:約0.7%、万引き:約1%)。殺人、暴行、自動車盗難には影響が見られませんでした。

 強盗などの犯罪が減少する理由は、サマータイムによって明るい時間が増えるためと考えられます。顔を見られる事を避けるには、暗い時間が適しているからでしょう。逆に衝動的な行動である殺人などは減らないと考えられます。

 しかし、万引きが減る理由は不明です。おそらく、店先で販売している店などで減るのではないでしょうか。照明が常に点灯しているスーパーなどでも減るかどうかは分かりません。

交通事故が減る

 日本のサマータイムの交通事故関連の記事を読むと、ほとんどがサマータイム開始時の1週間で交通事故が増加する事を取り上げています。

 しかし、医学雑誌BMJオープンの2017年の記事によると長期的なデータで見るとサマータイムで交通事故は減る傾向にあるようです。

 この記事では、世界中の道路交通とサマータイムに関連する論文から1411件を選別し、更に衝突事故に関する24件を抽出して評価しています。

 その評価結果によると、サマータイム開始時の短期的な影響(2週間未満)は、衝突の減少が19%、増加が38%、変化なしが44%と一貫性がない結果になっています。

 サマータイム開始時では睡眠不足による影響が考えられます。そのため、秋の終了時の短期的影響も調べた所、衝突の減少が33%、増加が33%、変化なしが33%と完全に割れています。

 また、長期的な影響(2週間以上)では、半数の論文で衝突が減少すると報告されています(それ以外は細かい記載が無いため不明ですが、例外や分類不能と思われます)。

 サマータイムの衝突事故に対する有益な影響は、歩行者とサイクリスト(自転車)に対して大きく作用します。ある論文では、サマータイム時の死者数が歩行者では36%減少、サイクリストは11%減少しています。

 サマータイム開始直後の交通事故に対する影響は不明ですが、サマータイム全期間で考えると交通事故は減少すると考えて良さそうです。

省エネ効果はほぼ無い

 サマータイムの利点として省エネ効果を取り上げる場合が多いですが、調べてみるとその効果はほとんど無いようです。

 少し古い調査結果ですが、アメリカのカリフォルニア州とインディアナ州のエネルギー消費についての調査があります。

 アメリカでは2007年にサマータイムの期間が1ヶ月延長されています。その切り替わりにあたって、サマータイムを実施している時期と実施していない時期のエネルギー消費を比較しています。

 結果は、カリフォルニア州ではほとんど差が見つからず、インディアナ州では約1%増加していました。

 次に日本の産総研の研究結果も紹介します。この結果によると、サマータイム導入で電力需要が増大する可能性を指摘しています。

 以下、記事の一部を引用します。

生活スケジュールの1時間前倒し(いわゆるサマータイム)は、夕方に事務所の空調を若干削減するものの、家庭の空調を大幅に増加させるため、逆効果となる可能性があることが分かりました。

(中略)
最大電力需要を抑えるためには、退社後、屋外で過ごしてから帰宅する、あるいは帰宅後、暫くエアコンを控える必要があります。

 対策方法が「すぐ帰宅するな」、「帰宅直後はエアコンを使うな」です。サマータイムで逆に我慢を強いられるのは本末転倒ではないでしょうか?

 いずれにせよ、サマータイムの省エネ効果には疑問符が付きます。

乳牛もサマータイムに適応する?

 堅苦しい内容が続いたので、一息入れるために余談です。

 農家はサマータイムが導入されたとしても基本的には太陽の動きに合わせて活動する必要があります。例えば、作物の収穫時間や乳牛を搾乳する時間などです。

 特に乳牛の搾乳時間をどうするのかが気になったので調べてみました。米国の農業系サイトであるSuccessful Farmingに以下の記事を見つけました。

 その方法とは、納屋にアナログ時計を設置して毎日数分間ずつ時間をずらします。時間をずらすコツは、時計の近くにはしごを立てて、牛にばれないように電球を交換するふりをしながら行うことです。

 サマータイム終了時はもっと簡単です。時計の電気コンセントを歩いて通り過ぎる時に抜くだけです。これで簡単に搾乳時間をリセットできます。

 まあ、この方法は冗談ですが、乳牛もサマータイムに合わせて搾乳時間を調整しているのは事実のようです。同じく農業系のこんな記事を見つけました。

 この記事は秋のサマータイム終了時の乳牛の時間調整方法です。記事によると、納屋のLED照明で日の出と日没を調整し、午前5時に点灯、午後11時に消灯するようにします。サマータイム終了時は2日かけて30分ずつ変更します。

 牛は習慣の生き物で変化を嫌うそうです。日本のサマータイム導入案では2時間ずらす事を検討しています。1時間の変化でも牛にとっては大変そうですが、2時間の変化に短期間で対応させるのは無理ではないでしょうか。

サマータイム開始直後の混乱

 サマータイム開始直後に発生する問題についての関連記事をまとめました。リンク先は全て英語記事です。

 サマータイムに移行する時、睡眠のパターンが崩れて睡眠不足になり、結果として健康被害、事故、集中力や自制心の喪失、判断力の欠如を引き起こすようです。

経済効果はあるのか?

 第一生命研究所のサマータイムの効果に関する2018年8月8日の発表資料によると、経済効果は約7,500億円としています。

 経済効果とは、ある現象に対して連鎖的に発生した需要によって得られる利益の合計です。

 サマータイムの導入で発生する新たな需要とは、上記資料によると娯楽・レジャー・外食等を想定しているようです。

 ただし、この計算方法には疑問があります。サマータイム導入によりずれた2時間をそのまま余暇時間として計算している点です。2時間ずれたら2時間の余暇時間が増えるとは思えません。

 就業時間を午前9時から午後5時までの残業なしとしている点も疑問です。国民全員が公務員だとでも考えているのでしょうか。

 また、業界別に経済効果を調べて積み上げた訳ではなく、年間家計消費に0.3%を掛けただけの計算もいささか乱暴です。

 更に言及すると、2018年8月7日(先程の資料発表の前日)のNHKの報道によると、第一生命経済研究所 主席エコノミスト 永濱利廣さんのインタビューでは経済効果を5千億円と発言しています(※記事が消える恐れがあるため、リンク先はインターネット・アーカイブ)。

 不思議な事に1日で2,500億円も増えています。計算をやり直した結果として2,500億円増えたのかもしれませんが、疑わしいデータと思われても仕方ないでしょう。

 参考に過去にまとめられたサマータイムの経済効果の資料を紹介します。

 どちらもサマータイムの期間を7ヶ月とした場合の経済効果をそれぞれ9,700億円、1兆2,094億円としています。最初の資料の7,500億円は期間を3ヶ月とした計算なので、7ヶ月換算では1兆7,500億円になってしまいます。これでは過大な見積もりだとしか思えません。しかし、7ヶ月で計算したとしても1兆円も押し上げる効果があるとは個人的には思えませんが……。

 この様に日本の経済効果の計算方法に疑問を持ったため、サマータイムを実施している国の経済効果を調べようとしました。しかし、国単位で計算している情報は見つかりません。

 ただし、小売業やレジャー産業などの経済活動が活発になるのは確かなようです。事実、米国がサマータイムの延長を決めた”2005年エネルギー政策法”では、小売業、ゴルフ業界、バーベキュー業界などからの激しいロビー活動がありました(バーベキュー業界の存在自体が日本から見ると驚きではありますが)。

 しかし、サマータイムを導入しても全ての経済に好影響があるはずがありません。導入によって車や家の売れ行きが伸びるとは、まさか誰も考えないでしょう。

個人消費の変化

 サマータイム中の個人消費の調査事例として、JPモルガン・チェースのサマータイムのカード支出調査について紹介します。

 サマータイムを実施しているロサンゼルスと実施していないアリゾナ州フェニックスのカード支出を比較した調査結果です。

 2016年と比較的最近の調査なので参考になります。補足しておくと、アメリカは国全体でサマータイムを実施している訳ではなく、州によって実施するかどうかを決定しています。

 分析結果によると、サマータイム開始時にロサンゼルスのカード支出は0.9%増加しましたが、終了時に3.5%減少していました。

 この分析結果はサマータイム開始終了前後のそれぞれ30日間を比較して算出されています。ロサンゼルスのサマータイム期間は3月第2日曜日午前2時から11月第1日曜日午前2時なので、その開始終了前後のそれぞれ30日間のデータを比較しています。

 その他の都市との比較結果もあり、いずれにせよ終了時に減少しています。

  • サンディエゴとフェニックスとの比較では、開始時2.9%増加、終了時2.2%減少
  • デンバーととフェニックスとの比較では、開始時0.8%増加、終了時4.9%減少

 減少する理由は需要の先食いの結果なのか、消費の反動で節約に転じるためなのか、いずれにせよ終了時に減少傾向にはあるようです。

 念のため書いておくと、サマータイムの経済的影響は一定ではなく、この比較方法に課題がある事は調査結果の文書に書かれています。

 しかし、終了時に支出が減少する傾向がある事は明らかなので、どんな方法で経済効果を計算したとしても、実際の効果は期待値より少なくなると考えたほうが良いでしょう。

 それに加えてサマータイム開始時の事故、健康被害、睡眠不足による生産性低下などの被害額を引くと、経済効果は更に少なくなるでしょう。

システム改修費用は数兆円?

 サマータイム導入のためのシステム改修費用の見込み金額は、1千億円から数兆円までとかなり幅があります。

 先ほど紹介した第一生命研究所の経済効果の資料によると1千億円を見込んでいます。しかし、これは少なすぎる気がします。

 立命館大学情報理工学部の上原 哲太郎教授は、公的インフラのみで数千億円、民間企業まで含めると数兆円かかるとしています。

 また、上原教授はサマータイムの実施が不可能である事を説明するため、以下の資料を独自に作成されています。

 上記資料では、金額の問題だけでなく、対応に4~5年かかる点、セキュリティ的な問題などかなり踏み込んだ内容が書かれています。

 ここで気になるのは、2007年にサマータイムを1ヶ月延長した米国のシステム改修費用がいくらだったのかと言う事です。

 以下のニューヨーク・タイムズの2007年当時の記事によると、3億5千万ドル以上と見積もられています。当時はミニY2K問題と呼ばれていた様です。要するに小規模な2000年問題と言う訳です。

 2006年から2007年にかけての為替レートは1ドル110円~124円なので、間を取って117円で計算すると約410億円以上になります。これは公開企業約7千社に絞っての見積もりなので、実際にはもっとかかっているはずです。

 すでにサマータイムが導入されていた米国でさえ400億円以上の費用がかかっています。コンピューターの登場以降で導入実績のない日本ではもっとかかるでしょう。

 また、2007年当時と比較してもコンピューターの台数もインターネットの利用も何倍にも進んでいるので、1千億円で済むとは思えません。かなり少なく見積もっても数千億円はかかるはずです。

 上田教授の言う様に数兆円でもひょっとするとおかしくないのかもしれません。

総合的に判断する

 ここまでで取り上げた内容を以下にまとめます。

  • 一部の犯罪に抑止効果がある
  • 交通事故が減る(ただし開始時に増える可能性あり)
  • 省エネ効果はほぼ無い
  • サマータイム開始直後に事故、健康被害、生産性低下などの影響あり
  • 経済効果はレジャー業界などは好影響だが、終了時の消費減少があり期待値以下になる
  • システム改修費用は未知数(最大数兆円)

 明確に利点と言えるのは犯罪抑止だけです。それ以外は何らかの問題を抱えています。正直、この記事を書くにあたって、サマータイムの好影響を探すのに苦労しました。悪影響は山ほど出てくるので全てを紹介しきれなかったですが……。

 賛成派にはサマータイムが良薬に見えるようですが、実際には効果が不透明な実験薬に思えます。不治の病ならば実験薬にも手を出すかもしれませんが、今の日本に必要な薬とは思えません。

 そもそも、準備期間が不十分で東京五輪までに間に合うとは思えません。

 サマータイム導入を2018年秋に決定したとしても、時間が関係する法律(誕生日、労働時間、製造年月日など)の改正まで含めて考えると全ての決定に少なくとも年内一杯までかかるでしょう。そうなると準備期間は約1年半になります。

 2007年にサマータイムの延長を決めた米国の準備期間が同じく約1年半でした。すでにサマータイムを実施していた米国でも苦労してシステム改修したのに、何の準備もない日本で同じ期間で対応できるとは思えません。

 また、サマータイムを導入すれば確実にサマータイムが原因の死者が出ます。なぜなら、開始直後に事故や急性心筋梗塞による死者が増えるからです。

 サマータイム全期間で見れば交通事故は減る傾向にあるので、サマータイムの導入で死者数はむしろ減る可能性はあります。しかし、これはあくまで仮定の話です。良くなるか悪くなるかもはっきりしない制度を性急に導入すべきではないでしょう。

 ここまで触れませんでしたが、サマータイムを導入すると残業時間が増える事を日本では懸念されています。

 海外のサマータイムと残業の関連について調べましたが、開始終了時の賃金計算方法と賃金未払いの問題ぐらいしか出てきませんでした。少なくともサマータイムによって残業が増える事は海外では無さそうです。例えあったとしても賃金未払い問題に置き換えられるはずです。

 では、日本でも残業が増える事はないと言えそうですが、戦後すぐの1948年にGHQ主導で導入されたサマータイムでは、残業増加が問題になっていました。今回導入したとしても同じ事になるのは目に見えています。開始時間を厳密に守っても、終了時間は守らないのが日本人です。

 働き方改革と一緒に考えるべきと発言している人もいますが、改善は不可能でしょう。”サービス残業”と”ブラック企業”の言葉を東京五輪までに無くせるのなら可能かもしれませんが、おそらく10年経っても消えてないと思います。

 最後にサマータイム導入議論はその出発点がそもそも問題だったと言えます。

 今年の酷暑を理由に東京五輪関係者が突如としてサマータイム導入を要求し始めました。今年が冷夏だったらどうだったでしょう。まずそんな意見も要望も出なかったはずです。要するに思い付きで言っているようにしか思えません。

 今の現状を例えるなら、とっくに引退したワンマンだった先代社長の思い付きに振り回される現役社員達と言ったところです。

 私は日本に混乱を招く恐れのあるサマータイムの導入に絶対反対です。