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原作読破済み!Netflix「アナイアレイション - 全滅領域 -」の感想

  最終更新日:2018/06/16

アナイアレイション - 全滅領域 -

 Netflixで2018年3月12日に配信開始された「アナイアレイション - 全滅領域 -」の感想です。原作3部作を読了後に見ました。

 本記事ではあらすじやキャラクターについて触れていますが、致命的なネタバレは特にありません。

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映画をいきなりNetflixで公開

 本作は北米で2018年2月23日に劇場公開されました。日本でも劇場公開されるものと思っていたら、約3週間後にNetflixで配信されることになりました。

 映画配給元のパラマウント・ピクチャーズと制作会社の間でもめた結果、パラマウント・ピクチャーズは配給権を北米と中国のみで取得し、それ以外の地域ではNetflixで配信することになったようです。

 詳しい事情が知りたい方は、当ブログの以下の記事にまとめています。

 劇場で見たかったなと言うのが本音ですが、場所や時間を気にせずに見れるのは良かったのかもしれません。

あらすじ

 Netflixに書かれているあらすじは以下の通りです。

 秘密任務から生還した夫が危篤状態に。最愛の人を救うべく、生物学者のレナは政府が封鎖した地域へと足を踏み入れる。その異様な世界で、彼女は一体何を見たのか。

 私がまとめた原作のあらすじ(冒頭のみ)は以下の通りです。

 <エリアX>は32年前に突如出現した。元の住人は全滅し、生態系が異常に変化していることが確認されている。<エリアX>に入る方法はその境界に偶然見つかった入り口からのみである。監視機構<サザーン・リーチ>が数々の調査隊を送り込むも、いまだ断片的な情報しか得られていない。

 監視機構は第11次調査隊を送り込むが、約1年後に全隊員が<エリアX>の外部で発見される。しかし、どの隊員もどうやって<エリアX>から脱出したか分からず、<エリアX>での記憶も曖昧だった。

 生物学者は<エリアX>に入ったはずの夫が何の前触れもなく家のキッチンに居ることに気付く。何が起こったか知ろうとするも、以前の快活な夫ではなく抜け殻のようになった夫に思い悩む。半年後、夫を含む全隊員は全身癌に侵され死亡する。夫の中に<エリアX>を見出した生物学者は、女性のみで構成される第12次調査隊へと自ら志願する。

 主人公が生物学者なのは同じものの、映画と原作ではかなり違いがあります。

  • 原作では主人公の生物学者の名前が不明(呼ばれないため)
  • 原作ではエリアXからの帰還者は複数人存在するが、映画では主人公の夫以外にいない
  • 映画では主人公が従軍経験のある生物学者になっている
  • 映画では<エリアX>を「シマー(shimmer)」と名付けている(かすかにちらちら光るの意味)
  • <エリアX>の出現時期が映画は3年前、原作は約30年前

 ほんの少しだけ違いを挙げましたが、設定はかなりの部分で違います。<エリアX>の異常の発現状況も大きく異なります。ストーリーも原作とは大きく違うと感じました。

どうにもならない望み

 映画の中で流れていた歌が”Helplessly Hoping”、日本語タイトル”どうにもならない望み”です(Wikipedia記事)。

 2分41秒と非常に短いにも関わらず、印象深い曲です。

 どこかで聴いたことがあるような無いような気がしたのですが、1969年リリースの古い歌です。失恋を歌った曲のようです。

感想

 まず最初に得点を付けると、10点満点で6点です。人間ドラマとして見ると8点、SF作品として見ると3~4点です。そのため、合わせると6点と言う評価です。

 原作とはストーリーが別物と感じました。<エリアX>や主人公の生物学者など原作の設定をある程度引き継いでいるものの、全体的に原作から借りてきたものを再構成しているように見えます。

 原作は3部作です。しかし、1作目の「全滅領域」の刊行時に映画化が既に決まっていたため、脚本も「全滅領域」のみを下敷きに作られています。

 原作の「全滅領域」は、<エリアX>に関係していない部外者である生物学者の視点で描かれているため、<エリアX>の全貌がほぼ分かりません。その後の2作目「監視機構」、3作目「世界受容」によって徐々に明らかになって行きます。

 映画の「全滅領域」はそれ単体で完結してしまい、続編が作れない形にしてしまった点が非常に残念です。これなら原作3部作の完結後に脚本を書いて欲しかったです。

 映画は原作のSF設定を3割程度しか生かしていないように思いました。

 原作で象徴的な存在だった「塔」も登場せず、監視機構の裏側も描かれなかった点が残念です。「塔」の代わりが、灯台のあの場所だとは思いますが……。

 怖さの質も原作と映画では異なります。原作はクトゥルフ神話の様な得体の知れない根源的な怖さなのに対し、映画はSCPの様な目に見える異常な状態の怖さを感じました。クトゥルフ神話もSCPも知らない人には分かり難い説明かもしれませんが……。

 原作の怖さは、絶対的な神のような宇宙人のような何かの存在を感じるものの、それが何かが分からない説明がうまく出来ない怖さなのです。映画では細胞とか電磁波とかの説明を付け加えてしまったため、怖さが矮小化してしまった印象を受けました。

 ここまで原作との違いについて述べてきましたが、映画単体で見ると悪くはなかったと思いました。

 <エリアX>の異様な光景の映像美は映画ならではだと思いました。灯台に近づくにつれて奇妙な光景が増えていくため、灯台に何かがある事がはっきりと分かりました。

 設定が簡略化され、主人公の性格なども変更されたことにより、ストーリーも原作より分かりやすくなっていた事は確かです。起承転結は映画のほうがはっきりしています。

 また、原作では主人公が自分自身と夫とどう向き合うかがひとつの主眼になっていましたが、映画のほうがより明確になっていた印象です。

 原作とはかなり設定が異なるものの結末がいまいちはっきりしない点も似通っています。<エリアX>とは何だったのか、原作でもある程度説明はされるものの、全ては明かされていません。

 映画で本作に興味を持たれた方は原作を読むことをおすすめします。多分、映画と全然違うと思うはずです。