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映画「オデッセイ」の分かりにくい場面を解説します

  最終更新日:2016/11/23

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映画「オデッセイ」解説

 先日、映画「オデッセイ」を観に行きました。私は原作本を読んでから観たので内容を理解できたのですが、逆に読んでいないと理解できない、分かりにくいシーンがたくさんあります。そこで、この映画の解説を記事にまとめました。

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はじめに

 この記事は映画をすでに観ている人向けに書いています。盛大にネタバレしていますので、映画を見てない方はご注意下さい。また、この記事の内容は原作本を読めば分かることがほとんどです。そのため、原作本を読む予定の方はブラウザバック推奨です(記事を読むと確実に読書の楽しみを奪います)。

 そもそも、この記事を書こうと思ったきっかけは、「映画オデッセイ わかりにくい」で検索してこのブログに来た方がいたからです。用語などで検索して来る方もいました。私は字幕版と吹き替え版の両方を観ましたが(感想記事はこちら)、内容を思い出してみると確かに短時間で理解するのは難しいだろうと思えることがたくさんありました。

 パンフレットを読んでみても、おそらくほとんどの疑問には答えられないだろうと思いました。そもそも、パンフレットには火星の地図が掲載されていないので、マーク・ワトニーがローバー(探査車)で移動した距離も分かりません。映画ではあっさり描かれていましたが、地図がないと彼の苦労はほとんど伝わらないでしょう。それ以外にも彼の苦労は上映時間の都合上かなりカットされています。と言うことで、この記事でワトニーの想像を絶する孤独と苦労が少しでも伝わると幸いです。

火星

 火星は太陽から見て4番目の惑星です。3番目が地球なので、地球の公転軌道の外側に位置します。

 平均気温はマイナス43度、大気の約95パーセントが二酸化炭素です。地表の大気圧は地球の約100分の1です。重力は地球の約40パーセントです。映画では火星の重力は再現されていません。撮影の問題もあると思いますが、必要性を見いだせなかったということで再現しなかったそうです。再現した場合、アポロ11号の宇宙飛行士が月面で歩く様子に近い状態になると思われます(月の重力は地球の約17パーセント)。

 火星の1日は約24時間39分です。これを映画では1ソルと呼んでいました。地球とほとんど同じですが、原作ではワトニーを衛星で監視していたミンディ・パークが、1ソルに合わせて就寝時刻を少しずつずらしているくだりがありました。

アレス計画

 アレス計画は、NASAの有人火星探査計画です。アレス1で初の火星有人探査に成功、アレス2を挟んで、アレス3が今回の映画の出来事です。どうやら4年毎に行われているようです。

 地球から火星までは宇宙船ヘルメスで124日かけて向かいます。映画でのヘルメスは巨大な宇宙船でしたが、この船は地球軌道上で作られたもののようです。地球からは普通のロケットでヘルメスまで移動し、補給物資を受け取った後、火星に向けて出発します。もちろん、ヘルメスで火星に降下はできないので、降下にはMDV(Mars Descent Vehicle:火星降下機)を使用します。

 火星からヘルメスに戻る時はMAV(Mars Ascent Vehicle:火星上昇機)を使用します。砂嵐に見舞われたアレス3のクルーが脱出した時に乗り込んだ船がMAVです。このMAVはアレス3のクルーが火星に到着するはるか前に着陸しています。MAVは18ヶ月かけて火星の大気と地球から持ち込んだ水素から燃料を作り出します。

 MAVの目的のひとつが燃料生成であるため、4年後に行われるアレス4のためのMAVもすでに火星に着陸しています。と言うか、今回のアレス3で着陸させています。ワトニーが映画の最後で火星から脱出するために使用したのがこのMAVです。

 ここまでである疑問が湧いた人がいるはずです。そんなに前からMAVが着陸していたら、映画冒頭のような砂嵐が1度でも吹いたら倒れるのではないかと。前述の通り、火星地表の大気圧は地球の約100分の1しかないため、MAVが傾いたり人が吹き飛ばせるほどの砂嵐にはなりません。せいぜい、石が転がる程度です。砂嵐の件は原作出版後に見つかった間違いですが、原作でも映画でも訂正されませんでした。これはストーリーが破綻するレベルの間違いなので仕方のない事でしょう。

ハブ

 ワトニーが生活していた居住空間がハブです。映画では立派な構造物でしたが、原作ではキャンバス生地で覆い密閉した大きなテントのようです。キャンバス生地とは日本語で言うと帆布、トートバッグなどにも使われる生地と言うと分かるでしょうか。文字通り、油絵などの絵画を描く素材でもあります。ただし、本作で使用されているキャンバス生地はカーボン糸製の特殊素材なので、極めて丈夫なものです。

 ソル119、EVA(船外活動)から戻ってエアロックに入ったワトニーは、エアロックごと吹き飛ばされてしまいます。原因はエアロックの膨張収縮の繰り返しによって、ハブのキャンバス生地が伸びて裂けたためです。3つあるエアロックのうち、同じエアロックを使用し続けていたのも原因の1つでした。

火星での農業

 ワトニーは火星でじゃがいも畑を作りました。映画では火星の砂と人間の排泄物だけで作られたように見えます。しかし、それだけではじゃがいもは育ちません。火星の砂には植物の成長に必要なバクテリアが存在しないためです。ワトニーは植物学者で実験のために地球の土を火星に持ってきていました。ただし、植木箱に入れる程度の量でしたが……。その土を火星の砂に混ぜて、水でしめらす事でバクテリアを増やしたのです。ちなみに種もありましたが、イネ科とシダ類のものだけで、食料として適していないものでした。生のじゃがいもを火星に持ってきていた理由は、感謝祭の日にクルー全員で料理をすることになっていたからです。

 ワトニーは火星でのじゃがいも生産に成功しました。じゃがいもは連作可能ですが、収穫量には限度があります。地球から持ってきた食料と込みで考えて、連作を続けるとなんとかソル900まで生存できる計算でした。つまり、いずれにしろアレス4で助けが来る4年後までには全く食料が足りていなかったのです。

 じゃがいも畑はエアロックがハブから吹っ飛んだことにより全滅してしまいます。これによりバクテリアが死滅し、農業も出来なくなりました。

水の生成

 ワトニーは畑に必要な水をヒドラジンから作り出しました。ヒドラジンはMDV(火星降下機)に残っていた燃料です。猛毒なので吸引はおろか皮膚への付着も厳禁です。

 ヒドラジンの化学式はN2H4です。つまり、窒素と水素から構成される分子です。ワトニーが行ったのは、イリジウム触媒を使ってヒドラジンを窒素と水素に分解、次に水素を燃焼して水を作ったのです。

 化学式で書くと、直接窒素と水素に分離するパターンとアンモニア(NH3)を経由して分離するパターンがあります。そのため、この触媒反応を試すと臭いはずです。

  1. N2H4 → N2 + 2 H2
  2. 3 N2H4 → 4 NH3 + N2
  3. 4 NH3 + N2H4 → 3 N2 + 8 H2

 後は水素と酸素を燃焼させて水になります。

  • 2 H2 + O2 → 2 H2O

 この水を作る過程で、ワトニーが水素の燃焼に失敗して吹っ飛ばされるシーンがありました。爆発の原因を「自分が吐く息に含まれる酸素を考慮していなかったから」と語っていました。これだけだと何のことが分からないと思います。映画では正確に描かれなかったため、原作での該当部分について説明します。

 ヒドラジンを分解して水素を取り出し、水素を燃焼させました。しかし、水素が完全に燃えずにハブ内の空気中に約64パーセントも残ってしまいました。水素の燃焼は狭い空間で行っていたため爆発には至っていませんが、ハブのどこかで静電気が放電しただけで爆発してしまう状態です。そこで、空気調整機をだますことでハブから酸素を取り除き、酸素を少量ずつ吹き付けながら水素を燃やすことにしました。呼吸は缶入りの酸素で行います。

 呼吸では酸素の全てを消費できず、吐く息にも酸素が含まれます。そのため、呼気に含まれる酸素が少しずつハブ内に溜まっていき、最終的にその溜まった酸素と水素が爆発的に燃焼してワトニーが吹っ飛ばされたと言うわけです。これが「自分が吐く息に含まれる酸素を考慮していなかったから」につながります。

 原作では水を作るのに結局20ソルぐらいかかっています。