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原作本を読んで映画「オデッセイ」を観に行きました

  最終更新日:2016/07/12

オデッセイ

 原作本を読んで、映画「オデッセイ」を観に行きました。昨年、映画館で予告編を見て、この映画は絶対面白いと楽しみにしていた作品です。リドリー・スコット監督のSF作品と言うのもアピールポイントです。普段は海外作品は字幕版を観るのですが、今回はあえて吹き替え版を観ました。

 本記事ではあらすじやキャラクターについて触れていますが、致命的なネタバレは特にありません。

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タイトル

 原題は”The Martian”、翻訳本のタイトルは「火星の人」です。”Martian”は火星人を意味しますが、文字通りタイトルを火星人にしてしまうと火星人が地球に侵略する話しと読み取れなくもないので、「火星の人」としたのは正解だと思います。

 映画タイトルは、原題通りだと「ザ・マーシャン」とするべきなのでしょうが、日本人には耳慣れない言葉です(濁点を付けると……)。そこで、”冒険の旅”を意味する「オデッセイ」に変更したのだと思われます。NASAの火星探査機2001マーズ・オデッセイの存在も大きかったのでしょう。「オデッセイ」のほうが響きが良いのは確かです。ですが、個人的には「火星の人」をタイトルの一部に使って欲しかったですね。

 2016年2月12日追記:「2001年宇宙の旅」の原題である”2001: A Space Odyssey”から取ってきたのではないかと改めて思いました。宇宙船ヘルメスのデザインを「2001年宇宙の旅」からリスペクトしている箇所があるので、おそらくこれが一番正解に近いと思います。

あらすじ(冒頭のみ)

 有人火星探査、アレス3のミッション中にクルーは猛烈な砂嵐に見舞われる。折れたアンテナがマーク・ワトニー(マット・デイモン)に直撃し、1人吹き飛ばされる。ワトニーの生存は絶望視され、アレス3の他の5人のクルーは火星から脱出し、地球へ帰還するため火星をあとにする。しかし、ワトニーは奇跡的に生きていた。空気、水、食料をどうやって調達するのか?火星でのワトニーの孤独なサバイバルが始まる。

原作

 原作者はアメリカ人のアンディ・ウィアーです。元々自身のウェブサイトで無料公開していた作品を2011年にkindleで売りだしたところ、またたく間に評判を呼び、映画化までトントン拍子で進んだのが本作です。

 年代は原作でも映画でも明かされていませんが、おそらく2040年前後の事と思われます。現実でもNASAは2030年代に有人火星探査を実現することを目標にしています。

 原作本は無茶苦茶面白かったです。夢中で最後まで読みました。ワトニーは孤独に火星で生き抜く訳ですが、ユーモア精神のかたまりの様な人物で終始ポジティブなので、悲壮感はほとんどありません。植物学者でありエンジニアでもあるワトニーは、知恵と工夫で様々な困難を乗り越えていきます。ストーリーは科学的に基づいて作られているので、とてもリアルに感じられます。

 ただし、ローバー(探査車)の形状が良く分からなかったり、宇宙開発の知識がないと想像しにくい箇所が結構あります。その想像しにくい箇所が映画で具体的になるのも楽しみのひとつでした。

 映画と小説ではストーリーが一部異なります。映画を見て興味を持った方はぜひ原作小説を読むことをおすすめします。

感想

 原作で専門用語が多かったのと、上映時間が2時間22分と長いため、映像のみに集中するため今回はあえて吹き替え版を観ました。マッド・デイモンの声を神奈延年(マクロス7の熱気バサラ役、Fate/stay nightのランサー役等)が担当しています。念のため確認した所、他の声優陣も主に吹き替えで活躍されている方々でした。某プ○メテウスの様な目にはあいたくないですからね(タイトルが隠せてないようなのは多分気のせいです)。声優陣の演技は何の問題もなく、完璧なものでした。俳優に対する声もぴったり合っていました。後日、字幕版も観ましたが、やはり専門用語が多いので、吹き替え版のほうが役者の演技に集中できて良かったと私は感じました。

 肝心の映画の評価ですが、星5つ評価の星4つ半です。面白かったのですが、原作の面白さにはおよばなかったと言うのが私の感想です。原作を読んでいなければ、星5つをつけたかもしれません。少なくとも、スター・ウォーズに不満を持った人もこの作品なら満足するはずです。

 物語の中盤までは原作とほぼ同じでした。後半はラストを盛り上げるためか、原作のエピソードをかなり省略していました。劇的な部分もあったのですが、上映時間的に難しかったのだと思います。また、感動的な話にするためか、ラストが少し改変されていました。映画的にはその方が正しいのかもしれませんが、運の要素が強くなってしまったのが残念でした。ストーリー全体に言えることですが、原作のほうがより孤独で過酷です。

 マット・デイモンは、皮肉を込めたしゃべり方や表情、仕草がマーク・ワトニーの役にぴったりでした。最初は少し太った顔つきだったのが、終盤のシャワー後の体つきの変化を見せるシーンにつながり、映像ならではの火星での過酷な体験を見せつけてくれました。

 「エイリアン」が代表作でもあるリドリー・スコット監督だからかもしれませんが、船長であるメリッサ・ルイス(ジェシカ・チャステイン)が印象に残りました。原作よりも彼女に焦点が当たっていた印象があります。また、なぜか宇宙力学者のリッチ・パーネルの登場シーンがやたらと多かったです。彼も重要人物ではあるのですが、原作では少ししか出番がなかったので、脚本家なのか監督なのか分かりませんが、誰かに気に入られたのでしょう。

 どうでも良い話ですが、原作で登場したパイレーツ・ニンジャが出てくることを期待していたのに、やはり出なかったです(正体を知りたい方は原作を読んで下さい)。

 原作での主人公の様子は、ワトニーの1人称による日誌(ボイスログ?)の形式で書かれていました。映画ではウェアラブルカメラのGoProによる撮影で原作の雰囲気をうまく出していました。GoProは随分宣伝になったのではないでしょうか。

 火星やNASA、宇宙船などのシーンは、ハンガリーのブダペストにあるスタジオで撮影されたそうです。火星の地表シーンはブダベストの巨大スタジオで撮影し、ヨルダンのワディ・ラム砂漠の景色と組み合わされています。VFX効果もありますが、本物の火星のようでした。NASAの全面協力と言うこともあって、科学考証もしっかりしている印象でした。

 いくつか不満はありましたが、さすがリドリー・スコット監督と言える作品です。くしくも、先日観た「さらばあぶない刑事」の村川透監督と同じ78才です。その年齢まで大作を作れるのは素晴らしいです。

パンフレット

オデッセイ パンフレット

オデッセイ パンフレット

 価格は税込み720円、サイズは縦横300×224mm(A4より縦3mm、横14mm大きい)です。全ページカラーです。内容は、中盤までのあらすじ、マット・デイモンとリドリー・スコット監督のインタビュー、火星やテクノロジーの解説、映画評論家の記事、プロダクションノート、原作者コメント等です。

 映画は原作と比べるとどうしても駆け足でストーリーが進むので、火星やテクノロジーに関する部分が原作を読んでないと分かりにくい点がありました。火星の1日を1ソルと呼んでいましたが、1ソルは約24時間39分です。その様な点を理解する手助けになります。映画のシーン写真も多く、買って損はないパンフレットだと思います。

 後日、本作の解説記事を書くため、原作本、パンフレットを見直しました。パンフレットは火星の地図さえなく、設定資料的な内容もなかったため、あまり役に立ちませんでした。その様な設定資料を期待する方は期待外れに終わりそうです。なお、解説記事は、“映画「オデッセイ」の分かりにくい場面を解説します”にまとめました。良かったらご覧ください。

「オデッセイ」の意図的な嘘

 映画のストーリーを壊す内容を含んでいるため、最後にまとめました。以下にまとめた事以外は科学的考証に基づいているので、「オデッセイ」がいかにリアルな作品であるかが分かります。

 火星の重力は地球の40パーセントしかないので、歩き方や物の動きに地球とは違いが出るはずです。しかし、あえて重力の差を表現する必要性を見いだせなかったということで、再現されていません。ストーリーに何ら影響を与えるものではないので、問題ない嘘だと思います。

 最後が最大の嘘です。火星地表の気圧は地球の100分の1しかないので、ワトニーを吹き飛ばすような砂嵐にはなりません。時速100マイル(約160km)に達する風でも砂や石を運ぶ程度で、人や機材に損傷を与える程の影響力はないようです。しかし、この猛烈な砂嵐を否定してしまうとストーリーが成り立たなくなるため、原作通りとしたようです。これはさすがに目をつぶらざるを得ない嘘です。

 上の動画はオデッセイの内容が科学的に正しいのかをまとめたものです(英語なので注意)。紹介した内容も出てきます。20世紀フォックス協力のもとに作られた動画のようです。

最後のメッセージ

 「オデッセイ 最後」の検索ワードでこのページに来る方がいるので補足しておきます。最後に表示される英文のメッセージが何なのかが気になっているのだと思います。

 あれは20世紀フォックスの海賊版防止メッセージです。内容は「どれだけの人数と時間の雇用創出ができたか」と言ったものです。要するに、「多くの人が関わって作ったのだから不正コピーするんじゃない!」と言うことです。実際に効果が出ているか不明ですが、2012年から始まっています。

 詳細は映画.comのこちらの記事をご覧ください。